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こうして一週間後、寒稽古の全日程が終了し,
いよいよ待望の鏡開きが行なわれる時がきま
した。家庭科教室の座敷には空きっ腹をかかえ
た黒帯組の部員たちが、ゼンザイが来るのを今
か今かと待っており、隣の料理室では特大鍋が
甘い匂いを含んだ湯気をもうもうとあげて、その
周りを取り巻いている連中の生唾を盛んに煽っ
ています。私もその中のひとりでした。甘い物に
飢えていた私は、この日こそ誰よりも多く腹いっ
ぱい食べてやろうと箸とお椀を握りしめて待機し
ています。少なくとも自分の持ち寄った餅と小豆
と砂糖の分だけは腹に納めないと損です。
それにしても黒帯組の落ち着きようはどうだろう。
もうすぐゼンザイが出来上がるというのに座敷で
ゆうゆうとしています。ゼンザイを食べるのに順
序などありません。先輩も後輩もなく、おかわり
自由、食った者が勝ちなのです。ぐずぐずしてい
たら食いはぐれてしまいかねません。なのにさす
がは鍛えられた奥ゆかしい黒帯組、見上げた思
い遣りの精神です。
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